「本物の技術を維持し、時代・環境に合わせた表現を」 美濃陶芸協会第5代会長に就任 安藤工さんの美濃陶芸に対する想い

本年4月1日より、安藤工さんが公益社団法人美濃陶芸協会の第5代会長に就任されました。環境の変化が著しい昨今に、美濃陶芸に対してどのような想いを持っているのか、安藤工さんにお聞きしました。

美濃陶芸協会の第5代会長、就任おめでとうございます。

公益社団法人美濃陶芸協会は、岐阜県美濃地方を基盤にして活動する会員数60名の陶芸作家集団です。昭和38年の設立以来、美濃陶芸と地場産業である陶業の発展振興を目指して活動を続けています。その主な活動は、展覧会や講演会など陶芸イベントの主催、作品研究会など多岐に亘ります。4月より新たな活動として多治見市本町に「美濃陶芸協会Gallery」と名古屋市栄町に東海テレビ放送と共同経営の「ギャラリー碗one」の2店舗をオープンいたしました。そして、10月には多治見市産業文化センターで第37回美濃陶芸展と次世代育成事業を開催いたします。様々な事業で美濃陶芸の素晴らしさや魅力、また技術の高さを発信して行きたいと考えています。

新たな挑戦ですね。なぜそのような挑戦をしようと考えられたのですか?

昨今のコロナ禍で作品を発表する場が少なくなり、苦しんでいる協会の作家が沢山います。新しくオープンした2店舗のギャラリーは、協会員の作品を常に展示・販売できる場をつくり、毎月、個展や企画展を開催できる美濃陶芸協会の拠点となる旗艦店として運営したいと考えました。今の時代、インターネット等で陶芸作品を見ることも出来ますが、作品を直に見て、手に取って感じてもらう事が陶芸の魅力知っていただく大切なことだと思っています。
そして新しく取り組む次世代育成事業ですが、我々は今を生きる美濃陶芸の作家として、歴史と伝統ある地域文化のやきものを、次代を担う子供たちに伝えていく事も大切な使命だと考えています。日本各地に地域文化があり、地域を支える地場産業や伝統工芸がありますが、時代の流れや担い手不足など、やきものに限らず一つの文化や産業を未来永劫続けていく事は大変難しい事だと思っています。私が住む市之倉も同じことです。私の幼いころは約100社の窯元があり地域で雇用も創出され、町中がやきもの一色で活気と賑わいのある町だったことを思い出します。現在は、窯元も半数以下に減り、時代の流れに少し寂しさを感じます。私は次代を担う地域の子供たちに、この地域の誇れるやきもの文化を、事業を通して伝えて行きたいと考えています。一人でも多くの子供たちにやきもの文化への興味関心を持ってほしいし、自分の育った町に世界一のやきもの文化があるということに誇りを持ってほしいと強く思っています。

いつもどんなことを意識して制作をされていますか?

陶芸は生活様式に密接に関係があるため、今の時代の変化に適応し進化させていく事が大切だと思います。例えば、抹茶盌は時代の流れに合わせて変化してきました。美濃陶芸が開花した桃山時代に作られた茶盌は多くの名品が残っています。どれも、豪快で大きいサイズの茶碗が作られていました。おそらく茶道をたしなんでいたのは主に男性の武士でしたので男性の手に合わせた事もあったと思いますが、現代は茶道をされる方は女性の方が多いと思います。桃山時代の名品の真似をして大きな茶盌を作っても通用しません。女性の手の大きさに合った使いやすいサイズを意識しなければなりません。ただ、私も作家ですので自分の表現したい造形と一般的に望まれるものと、制作においてのギリギリのせめぎあいに頭を悩まされる事もよくあります。時代の変化に適応して進化していくことも大切ですが、そのためには適応し表現出来る技術が必要です。「本物の技術」を身につける事が最も大切だと考えています。

環境や生活様式の変化は、どのように取り入れていますか?

あくまで私の場合ですが、陶芸ではない別の分野の芸術を学んだり、違う世代、異業種の方と交流をするようにしています。仕事柄、一人で工房に入り作陶に没頭していると、情報量が少なく時代遅れになるような気がするので、常にアンテナを張って時代の流れに敏感でいたいと思っています。私には20歳の娘と19歳と16歳の息子がいます。いつも世代や感覚の違う子供たちから、今何が流行っていて、何に興味があるのかをよく聞きます。自分が普段触れないものや良いと思わないものでも、否定しないようにしています。「この服のどこが良いの?」「この曲のどこが好きなの?」とか違う価値観を聞き深く掘り下げることで、自分にない気づきや新たな発見があり、良いと持ったことは全て吸収するようにしています。
これは、陶芸界の巨匠 加藤唐九郎さんから学びました。世界的に評価されているお方でしたが、名も知れていない若い作家の作品を見て「これはどういうふうに作ったんや?」と常に貪欲で、聞いたことをすぐに次の作品制作で試していたそうです。違う感性や角度から柔軟に取り入れ、直ぐに挑戦してみるということは作品を作る上で大切なことだと感じています。

それでは、最後に今後の意気込みをお願いします。

コロナの終息がなかなか難しい状況下で我々美濃陶芸協会は社会に対してどうあるべきか、今こそ美濃陶芸協会はコロナで疲弊した社会に対し「美」を届け、多く皆様の心に寄り添える陶芸の力を発信していきたいと考えております。美濃陶芸協会会員が力を合わせ助け合って活動してまいります。今後ともご指導、ご鞭撻の程宜しくお願い申し上げます。


<掲載企業>
仙太郎窯 安藤 工さん
〒507-0814 多治見市市之倉10丁目98

http://www.sentarogama.jp/

執筆・取材:木次拓美(コツギタクミ)